「大丈夫だと思う?」
「何が?」
「あの二人」
並んで下校するツバサの言葉に、コウは軽く視線をあげた。
「さぁな」
「さぁなって、ずいぶんと無責任ね」
「俺にどう責任取れって言うんだ?」
「それはぁ」
口ごもるツバサを笑いながら見上げ
「大丈夫にしろそうでないにしろ、俺たちにできることなんてないだろ?」
「まぁ、それはそうなんだけど」
それでもツバサは納得がいかない。
「そんな顔するなら、ツバサも行けばよかっただろ?」
「え?」
「大迫ん家」
「うーん」
そこでツバサは右手の人差し指を顎に当て
「それはさすがにでしゃばりかなって」
「でしゃばり?」
「間に人が入るより、三人でトコトン話し合ってもいいかなって思ってさ」
「だったら、やっぱりお前がここで悩んでたって仕方ないだろ」
コウの言い分には反論のしようもなく、ツバサは結局言い返せない。
自分が悩んだって仕方がない。それはわかっているんだけど、誰かが困ってるってわかっていて、でも何も行動しないなんて、そんなのいいのかな?
それに――――
ツバサの短い髪の毛を、風が撫でる。
私のせいで、美鶴って死にかけたワケだし。
ツバサはなんとなく負い目を感じる。
自分が里奈=シロちゃんとコウとの間を変にあれこれ考えてしまったお陰で、美鶴は危うく死にかけた。
本質を見るなら、別に悪いのはツバサではない。犯人は澤村優輝であって、ツバサではない。だがツバサは、どうしても罪悪を感じずにはいられない。
私がウジウジ考えてなくって、さっさと事態をコウに話していたら、もっと早くに美鶴を探し出せていたのかもしれない。
私って、本当にバカ。昔と全然変わってない。
ため息をつくと同時、後頭部へ受ける軽い衝撃。
「いたっ」
横でコウが鞄を手に瞳を細める。
「人の話、聞いてるか?」
「あっ ごめん」
またやっちゃったよ。コウの話はちゃんと聞こうって、あれほど言い聞かせているのに。
もうどんどん自己嫌悪。
あぁ ホントに自分が嫌になる。
「そんな不景気な顔してると、お前まで変なトラブルに巻き込まれるぞ」
俺まで一緒に巻き込まれるのはゴメンだからなと呟くコウに、ちょっと待てとツバサが肩を掴んだ時だった。
「あら、相変わらず仲が宜しいことで」
振り返る先には唐渓の女子生徒。背後に立つ同じ唐渓の男子生徒が、ニヤニヤとコウへいやらしい視線を向けている。
「お二人ご一緒に下校なんて、めずらしいですわね。あぁ 今は唐渓祭の準備で体育館は使えませんものね」
「まぁバスケ部なんて、練習してるのかしてないのかわからないような部だからな。夏前の騒ぎなんて、なんか八百長でもしてたんじゃねぇの?」
大方、コウの背の低さでも侮蔑する輩だろう。
関わるべからず
ツバサとコウは無言で言葉を交わし、無視して先へ進もうとした時だった。
「でも、よかったですわね、涼木さん。これからは毎日、蔦くんと一緒に下校できるのですものね」
「は?」
思わずツバサが足を止める。コウも一瞬足を止め、だが、構うなとツバサを強引に促す。そこでツバサが従っていれば、変な好奇心など出さなければ、何も起こらなかったのかもしれない。
だがツバサは、振り返ってしまった。
「何?」
相手の反応がよほど嬉しかったのか、女子生徒はしてやったりの表情で腕を組む。
「あら? ご存知ない? そんなワケないですわよね」
意味ありげな前置きをたっぷりと流し
「バスケ部が来月末で廃部ですもの。蔦くんの部活動でお二人の帰りがバラバラになる事も、なくなりますわよね」
時として、無関係な人間が物事を乱す事もある。無関係であるがゆえに大した思慮もめぐらせずに発言し、無責任にその好奇心を満たそうとする。
女子生徒にとって、バスケ部の廃部など何の意味もない。ただ、その事実を自分が口にする事によって、ツバサやコウがどのような反応を示すのか。ただそれを見てみたかっただけのこと。
「は… いぶ?」
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